世界はそう大きくない。映画『ムーンライト』のマジック。(ネタバレあり感想)

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こんばんはエルチ(@elchi3000)です。
先日、イオンシネマズ大井で「ムーンライト」を見てきました。
ここ埼玉で映画館の一番大きなスクリーンでこの映画が見れる幸せ。アカデミー賞のおかげです。

「ムーンライト」(moonlight)

監督 バリー・ジェンキンス
製作 アデル・ロマンスキー/ デデ・ガードナー/ジェレミー・クライナー
製作総指揮 ブラッド・ピット
キャスト トレバンテ・ローズシャロン(ブラック)/アンドレ・ホランドケヴィン/ジャネール・モネイテレサ/アシュトン・サンダース10代のシャロン/ジャハール・ジェローム10代のケヴィン

★★★★★ 100点

素晴らしかったです。自分が映画を見た時に感じる最も大きな感動は、地続き感といいましょうか、人種も地域も違う世界の話を見ていのに親近感を得て、世界の人々と感動を共有ていると感じた時に起こります。

「ムーンライト」は全キャストが黒人でありセクシャリティも自分とは違う人の話なのですが、シンプルで普遍的なテーマを扱っていて、バリー・ジェンキンス監督の言う「世界はそう大きくない。と感じさせてくれる素晴らしいマジックが多数織り込まれた奇跡のような映画でありました。

美しい世界

1つ目のマジックは、世界そして人々は美しいということへの表現です。映画が始まり映像が映し出された瞬間、マイアミの公団住宅リバティシティの青い空、太陽光を浴び、光るフアンの車がビックリするくらい綺麗で目を奪われてしまいました。太陽光と黒人の肌が綺麗な映画はスパイク・リー/マーチン・スコセッシ監督の「クロッカーズ」を思い出しますが、ムーンライトはタイトルのとおり月の光に照らされた風景や人々、夜の画面や室内の画面もきれいで、シーンごとに驚かされ最後まで見とれてしまいます。

 こちらのサイトにロケ地や舞台となった場所がよく分かる紹介記事がありましたので貼っておきます。このサイトでも紹介されていますが、何度となく出て来るVirginia Key Beach は昔black-onlyとされていたところですが他のビーチもそうであるようにとても美しく登場しています。

また、音楽も素晴らしかったです。特にウオン・カーワイの「ブエノスアイレス」への直接的なオマージュとなっているカエターノ・ヴェローゾの曲や、バーバラ・ルイス「ハローストレンジャー」が使用されていてここからも、人種や地域にとらわれないこの世界自体の美しさや、愛についての賛歌となっていると思います。

超いい顔。フアンが教えてくれる事。

この映画でアカデミー助演男優賞を取った、マハーシャラ・アリには完全やられてしまいました。彼はハウス・オブ・カードでも超いい顔連発でしたが、ムーンライトでも素晴らしかったです。主人公シャロンに優しい男、しかしドラッグディーラーのフアン役。

1つめのエピソードにしか出てきませんが、彼の優しさと、父親がわりとしての言葉は、その後のシャロンに影響を与え、映画全体を貫く重要な存在です。その笑顔、絞られるような悲しい顔、2つが入り混じった顔。忘れられません。2つめのエピソードでサラリとこの世界にすでに彼はいないということが知らされた時は喪失感を感じました。

自分は何者なのかまだ分からないシャロンが他者から受ける言葉に対し、彼が教える事は、私も通ってきた父や師との対話と同じ、シンプルで普遍的なものだと感じます。

しかし何故、フアンがシャロンに対しこれほどまで優しく関わろうとするのか?はまだよくわかりません。

3人が演じる1人のシャロンが見えてくる。

この映画で最も驚くべきマジックは、3つのエピソードそれぞれのシャロンを演じる役者さんが違うこと。顔がちがうのに間違いなく同一人物であるという実感を与えてくれます。監督のインタビューでこの3人は直接会わせなかったと知ってさらに驚かされます。

特に3エピソード目のアトランタに移ってからのごついシャロンは全然別の体型や顔つき、しかし仕草や目で「ああ、やっぱりこの人はシャロンなんだ。」と感じます。その確信度合いと比例して、この映画に対する感動が湧き上がってきます。

この映画について何度も考えて思うのですが、フアンとケヴィン、そして私もシャロンに対して同じ美しさを感じ、惹かれているのだと思います。

3 人のシャロンを見ていると他者からの軋轢に対して裸で真正面からそれを受ける。最愛の親友からの暴力にも何度も立上ってしまうような、その姿は物凄く危なかっかしいですが美しいです。

アトランタに移ってからのシャロンは鍛え上げ、言葉も鋭く自分を守るすべを身に着けたようですが、母との対話、ケヴィンとの対話で一つ一つそれを剥いでゆき、終盤には完全に裸のシャロンに戻ります。

アカデミー賞作品賞での珍事でもセットで語られる事ララ・ランドも作り手の情熱について書きましたが、「ムーンライト」はまた別の形でこのように散りばめられたマジックは並々ならぬ情熱によって準備され、刻み込まれたものだと思います。

その結果、私から遠く離れた場所であるはずの「ムーンライト」の物語にとても共感し、私にとっても大事な映画になりました。

以上『世界はそう大きくない。『ムーンライト』を見て感じたこと。(ネタバレあり感想)』でした。

最後にこの曲を貼っておきます。