ポール・シュレイダー監督の集大成「魂のゆくえ」

シェアする

★★★★★ 95点
「魂のゆくえ」
(first reformed) (2018)(118分)official site

ポール・シュレイダー監督(1946年生まれ74歳!)の集大成、魂のゆくえ」を見ました。

ポール・シュレイダーといえばマーティンスコセッシ監督に脚本を提供した「タクシードライバー」(1976)が有名です。「タクシードライバー」は監督自身がロサンジェルスで暮らしていた頃、孤独との格闘の中で自殺を考つづけるに至った経験を脚本化した作品です。

そしてこの「魂のゆくえ」は構想50年という事で、そのロサンジェルス時代からの構想を始めた映画である事が解ります。

監督はオールタイム・ベストとして、スリ(1959)パフォーマンス(青春の罠)(1970)そして小津安二郎監督の秋刀魚の味(1962)をオールタイム・ベスト映画にあげています。

「魂のゆくえ」でも動きが少なく登場人物の内面を想起させる映像から、小津安二郎監督からの影響を感じ、嬉しくなりました。監督は日本通であり、三島由紀夫を題材に緒形拳主演で映画「ミシマ ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ」も監督しております。

前半のミニマルな画面に対して、主人公の内面はまるで嵐が吹き荒れるようです。イーサン・ホークの演技も静かでいながら、激しく吹き荒れる内面を見事に表現しているともいました。イーサン・ホーク主演映画には「クロッシング」やビフォアシリーズ等、好きな映画が多いです。彼は少し影のあるキャラクターを多く演じていますが、この映画ほど彼の眉間の縦皺が深く見えた映画は無く、素晴らしいキャスティングたと思いました。

主演女優のアマンダ・サイフリッドもハマっていてしました。彼女はオファーを受けた時期に妊娠しており、監督は劇中にも妊娠中である設定を加えたそうです。映画を見るとそのように後で付け加えた要素に見えず、むしろ深みが増しており監督の才気を感じます。

前半静かな印象なのですが、全体を通して振り返ると、1つとして無駄の無いことに気づきます。主人公の内面で、協会で牧師を務めることと信仰は、超重要事項でシビアな反面、客観的に見るとやはり意識過剰ともいえる現実シーンを織り込むことで見ている私達に納得のできる展開となっていると思います。同時に、主人公がそうならざる得ない事を見ている側に迫る展開も見事です。

様々な映画を見ていて、何かをきっかけに中盤から映画が劇的に走り出す瞬間が好きなのですが、この映画においては、走り出すというより、浮遊し始めちゃいます。この感覚は今までの映画体験の中ではない感覚でした。実際にそのシーンはとてつもなく美しく、またぶっ飛んでおりました。

以降は片時も目が離せない展開で見入り、驚くべきラストを迎えます。現在鑑賞してから4日が経ちますが毎日この映画の事を考えてしまいます。ラストシーンを様々な解釈ができるのも「タクシー・ドライバー」と似ていますが、ポール・シュレイダー自身が脚本監督した「魂のゆくえ」も超弩級の傑作だと思いました。