思考を変化させてくれる映画。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督「メッセージ」(ネタバレ)感想。

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こんにちはエルチ(@elchi3000)です。
5月19日からずっと楽しみにしていたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の「メッセージ」が公開されました。公開以来、みなさんの興奮気味の良い評価がtwitterのタイムラインにどんどん流れてきて、早く観たくてヤキモキして週末をおりましたが、5月22日(月)にユナイテッド・シネマズ若葉の夜の回で観てきました。

ストーリー
ある日、突如として地球上に降り立った巨大な球体型宇宙船。言語学者のルイーズは、謎の知的生命体との意思疎通をはかる役目を担うこととなり、“彼ら”が人類に何を伝えようとしているのかを探っていくのだが……。

スタッフ
監督 ドゥニ・ビルヌーブ
製作 ショーン・レビ / ダン・レビン / アーロン・ライダー / デビッド・リンド
原作 テッド・チャン
脚本 エリック・ハイセラー
撮影 ブラッドフォード・ヤング
音楽 ヨハン・ヨハンソン

キャスト
エイミー・アダムス ルイーズ・バンクス /ジェレミー・レナー イアン・ドネリー/ フォレスト・ウィテカー ウェバー大佐 /マイケル・スタールバーグ ハルパーン捜査官/ マーク・オブライエン マークス大尉 /

「メッセージ」(arrival)(2016)(116分)
★★★★★(95点!)

良かったです!見る前と観た後で自分自身の感覚や考えが変わってしまうような映画でした。地球外生命体の到来を軸として、トリックに対する驚きや、すごいアイデアが盛り込まれた映画なのですが、同時に謙虚で優しい気持ちになりました。以下多分にネタバレが含まれる感想ですので、映画を見てからお読みください。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のSF作品

この監督のSFが観られる!次回作は「ブレードランナーの続編」だと!?2017年が始まってからと言うもの、ずっとこの事にワクワクしてました。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の映画は物語が始まる序盤のテンションの上げ方素晴らしいのですが、「メッセージ」も、授業中生徒たちの携帯電話がなり始めて世界がざわざわ~っとなる感じ、それでも睡眠も必要でルイーズが寝てまた次の日が来る流れ。丁寧に日常も描くことでリアリティが増して、私のこれまでの人生で何度か有った大事件が起きた夜を思い出しました。

各地に宇宙船が停泊した世界を、テレビの放送や、各国とのオンラインの画面を通じて人々の動揺と攻撃的な反応を見ながら、同時にルイーズの視点から異星人とのコンタクトの現実を見せてゆく対比が非常に面白かったです。

そして、自然の中に佇む宇宙船の姿と内部、異星人へプタポッドと其の文字。どれも見たことの無いデザインでとてもおもしろかったです。暗い映画館の中、ヴィルヌーヴ監督のSF作品を観ている事の幸せにつつまれていました。

言語は思考に影響を及ぼす。

言語学者であるルイーズが、ペプタポッドの言語を解明してゆくにつれ思考方法に影響を受け、時間軸を超えた感覚を身に着けてゆく。奇想天外なアイデアですが、たしかに有りうるかもしれないなと感じるテーマです。

日本語と英語、わたしも下手な英語を使う機会がありますが挨拶をとっても、日本語だと「こんにちは」と呼びかける所、英語だと「How are you?」「fine thank you」という相手への問いかけで、相手との会話がスタートする前提になっているため、自分がより積極的でオープンな性格になったような気がしますし、英語を話すために、そうするようにしております。小さなことですが、英語を使っている時の私はいつもより積極的な人になっているということです。

このように「言語が思考に及ぼす」という仮設をサピアウォーフの仮説(言語的相対論)って言うらしいです。

「仮設」とついていますが、これって絶対ありますよね。面白いです!逆にいうと「言語を習得することで、自分が変化できる」可能性を示してくれる理論です。言語を学ぶことによって世界が広がるとは思っていましたが、「自らの思考が変わっていく」と言うこの考えは目からウロコでした。

学ぶこと=変化すること

「学ぶこと」も映画にとても重要なコンセプトになっていると思います。見終わった後自分の可能性が広がったような感じがしたのは、学ぶ事に対する可能性を示してくれるからだと思います。「メッセージ」が面白いのは、コミュニケーションそのものよりも、それ以上に其の方法を学ぶ事によって変化を起こしていることです。宇宙人とのファーストコンタクトの翻訳者として軍に声をかけられ、ガンガン立候補するルイーズは、当初からこの事が分かっているのでは?と思いました。「学ぶ事 = 変化する事」其の結果として世界が救われる。学者さんが格好良い映画でもありました。

未来の想い出

ルイーズはへプタポッドの言語を覚える事で時間の感覚が変わり、未来の記憶を見る事が出来るようになるのですが、同時に世界中に降り立った理由も分かってきます。そのあたりラストまでのこの映画はとても愛に満ちたものになってきます。

そして冒頭から映し出されてきた、亡き娘の思い出が未来の思い出であったことを知るわけですが、それでも前に進む事を選ぶルイーズの姿にとても感動しました。

自分だったらどうだろう悲しい未来が待っている事が分かっていても、これから生まれてくる愛する人に会うためにその道を進むか。自分だったらどうするでしょうか?

ジェレミー・レナー扮するイアンに「もし大切な人が去ってしまうと分かっていたら今をどう過ごす?」と問うと「自分の気持をもっと伝えるようにするかな・・・」と答えるイアンが素晴らしく感動的なシーンでした。しかし未来の想い出の中では、この先に起こる娘との話をしたら、イアン出ていってしまっています。男性はルイーズを理解しきれず耐えられないということでしょうか?

私が思ったのはルイーズはヘプタポッドとの対話の中で更に感覚を変えていたのでは無いかと思います。それは自分も亡き未来まで見えていたと言うことです。最後にルイーズが一人でアボットとコステロに会いに行った時、3000年後の話をします。同時にアボットは死の過程にあり姿が見えません。彼らの時間を超えた感覚は自らの死後も見えるということだと思いました。そこにルイーズとイアンの感じている感覚の差があるのではないでしょうか。

以上、見終わって1周間がたとうとしておりますが、余韻が未だ続いております。特に謎が残っているわけでは無いのですが、解釈を徐々に深めてゆくためにこの映画の事を考えている時間が楽しいです。ヘプタポッドとの対話によりルイーズの感覚が変化しましたが、その数十分の1くらいこの映画を見たら私の感覚も変わりました。「未来の想い出」は見えませんが・・・

「メッセージ」期待以上の映画だったです。今後もドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の作品を楽しみにしてゆきたいと思います。

最後にちょっと小ネタとして以下記します。

シャン将軍とその他の事

中国のシャン将軍も攻撃的な軍人という印象でしたが、ラストではルイーズが発した言葉によって本来の人格をが見えてきます。奥さんの最後の言葉でもあるルイーズが行った言葉ですが、監督があえて北京語の字幕を削除したそうです。この言葉が何だったのか非常に気になってましたので調べた所…

→ こちらのサイトにありました。

”In war there are no winners, only widows.”(戦争に勝者はいない。ただ未亡人がいるだけ。)

それと、「ボーダーライン」に引き続き、ヨハン・ヨハンソンの音楽も良かったです。とくに以下、「ののののののーのんのののー」が良かったです。


Jóhann Jóhannsson – Heptapod B [From “Arrival” Soundtrack / Pseudo Video]

原作本