止まらない恐怖への直進。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督「ボーダーライン」を観た。(ネタバレ)

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こんにちはエルチ(@elchi3000)です。

ついにドゥニ・ヴィルヌーヴ監督「メッセージ」が先週の5月19日から公開開始されました。まだ見に行けてていない私、来週見に行く予定です!それまで皆さんが盛り上がっているツイッターのタイムラインで「メッセージ」についての投稿から目を外すのが大変です。この公開に合わせ、これまヴィルヌーヴ監督の過去作を見てきましたが今回の「ボーダーライン」で一旦完了となります。

ストーリー
巨大化するメキシコの麻薬カルテルを殲滅するため、米国防総省の特別部隊にリクルートされたエリートFBI捜査官ケイトは、謎のコロンビア人とともにアメリカとメキシコの国境付近を拠点とする麻薬組織撲滅の極秘作戦に参加する。しかし、仲間の動きさえも把握できない常軌を逸した作戦内容や、人の命が簡単に失われていく現場に直面し、ケイトの中で善と悪の境界が揺らいでいく。

スタッフ
監督 ドゥニ・ビルヌーブ
製作 ベイジル・イバニク / エドワード・L・マクドネル / モリー・スミス / サッド・ラッキンビル
脚本 テイラー・シェリダン
撮影 ロジャー・ディーキンス
音楽 ヨハン・ヨハンソン

キャスト
エミリー・ブラント ケイト・メイサー /ベニチオ・デル・トロ アレハンドロ /ジョシュ・ブローリン マット・グレイバー /ビクター・ガーバー デイブ・ジェニングス /

ボーダーライン(SICARIO)(2016)
★★★★★(90点)

すごい映画だと思います。今までのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作の中で1番スゲエ!となったのがこの「ボーダーライン」です。今回2回めの観賞で、過去作のおさらいをやって来ましたが、忽然と現れるバイオレンス、身近な人々から発せられる恐怖、美しく格好良い画面、ヴィルヌーヴ監督の凄さが集結した最も好きな作品です。

あれよあれよと危険に直進して行ってしまう恐怖

メキシコ麻薬カルテルを描いた映画として、メキシコ麻薬カルテル側の残虐性や凶暴さを直接観客に見せるものではありません。其の断片が少しずつ自分に降り掛かってくる感じ。作戦に参加している仲間との時間を主点に見せてゆきます。実際の恐ろしい事というのは、こんな風に実感してくるんだろうなと思います。
あっ・・・あれ・・・と考えている間もなく出来事の波に飲み込まれてゆく。
何故起きているのか、何が起きているのか全体を理解する前に、あれよあれよのうちに自分がとても危険な所に流される。日常感じたことのある恐怖への接近のパターンで今メキシコで起きている巨大恐怖を仮想体験することになるすごい映画だと思います。

序盤、メキシコのフアレスに入ってゆくシーンが最高です。

この中にで何が起きているか?わからないうちにどんどん作戦が進み、ずんずんと入っていっちゃいます。

これらの俯瞰のシーンは私の脳裏ではあの津波の映像を思い出してしまいました。その先不可避の危険状況に向かって、主人公が乗った車が走ってゆくようです。ヨハン・ヨハンソンの底の見えない暗闇穴に落下してゆくような音楽がさらに恐怖を掻き立てます。車中からの街を見る視点に切り替わってからもどんどん一定の速度で町の中を走ってゆく。自分ではブレーキを踏むことのできない流れに乗っているようです。途中カルテルによる死体が吊るされているのですが、立ち止まること無く車は走ってゆきます。行方不明者の張り紙が多数貼られた市街地で銃撃戦が起こるわけではないのですが、最高レベルの緊張感が持続します。そして作戦の帰路国境でのシーン。一連のシーンはマイケル・マンの「ヒート」の市街戦を観た時の様な興奮がありました。実際にマフィアとの打ち合いとなるボーダーの検閲レーンはレプリカセットを作って撮影されているそうです。

心強いが、怖い先輩


国境シーンでは最後に近づいてきたギャングを主人公が射殺し、「やるじゃんエミリー!!」これから彼女が頭角をあらわして成長し、作戦を成功させてゆくのかな・・・なんて思っていたらぜんぜん違う話でした。

ベニチオ・デル・トロはどう考えても、映画に出ようという顔の状態ではないように感じました。目の死にっぷり、顔色の悪さ。体のボリューム感とかからそこから発せられる闇のオーラが凄いです。デル・トロは自らのセリフをかなり削らせて演じ、この映画で観客が覗き込む闇そのもの体現しているような物凄い演技でした。

行動を共にしてる先輩が心強い反面、底知れず怖くて、徐々に気持ちが引いてしまう経験をいろいろと思い出しました。幼少期、青春時代、社会人、心強いが、一緒にいる事自体が怖い先輩や友人ていますよね。私は結局自分もシバかれたりもしました。このモデルの最強の状態がこの映画で描かれており、稀有の映画体験をさせてくれます。怖い先輩No2のジョシュ・ブローリンの油っこさも絶妙だったです。


主人公が「もう飲まなきゃやってらんないわ!」と言うことで羽目を外してみたら、一晩を共に夜使用とした相手が・・・という展開はヴィルヌーヴ監督らしい展開ですが、やはりデル・トロ先輩方の意の中で進んでいたのではとも思います。

素晴らしい撮影

冒頭でも俯瞰ショットについて書きましたが、全てのシーンがとても美しく、面白い映像です。水色の空と砂漠、雲、漆黒の銃と装備、光があふれるシーン、濃い影、素晴らしい映像が続きます。終盤ではサーマルカメラや暗視カメラも使った映像も良かったです。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品では「プリズナーズ」今度の「Blade Runner 2」でも撮影を担当するロジャー・ディンキンスがすごい人なんでしょうね。下の「Making The Visual Design of Sicario」を見ると映像がどのように作られたかの一端がわかります。


Making The Visual Design of Sicario

ラストまで緊張と、美しさ、面白さが敷き詰められており素晴らしい映画だとも居ます。以上「ボーダーライン」の感想した。来週には新作「メッセージ」が見れることが本当に楽しみです!